人権対応水準の高度化 ― EU強制労働規制への備え(その1)
(Raising the Bar - Preparing for the EU Forced Labour Regulation)
欧州では、サプライチェーンにおける環境および人権侵害に関する強制的なデューデリジェンスの義務化が拡大の局面を迎えています。EU強制労働規制(EUFLR)は、遅くとも2027年末までに適用開始される予定であり、強制労働により生産された製品のEU市場での流通が禁止されます。本規制に準拠しない企業は、自社製品がEU市場で販売禁止または回収の対象となるリスクがあります。
EUFLRは、森林破壊に関連する製品をEU市場から排除するEU森林破壊規制(EUDR)と類似した仕組みであり、EUDRは2026年末までに適用開始される予定です。今後施行予定の主要なデューデリジェンス関連法規としては、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)があり、これは包括的なデューデリジェンス枠組みとして、2029年7月より適用が開始されます。
EUFLRはEUDRと同様、企業活動に短期的かつ直接的な影響を及ぼす規制です。EUFLRは強制労働という特定テーマに特化した規制であり、欧州市場に製品を投入しようとするあらゆる企業に影響を及ぼします。従来は主としてレピュテーションやCSR上の課題として扱われることが多かった人権リスクを、企業の市場アクセス、売上継続性、在庫回収、サプライチェーン維持、さらには資金調達や取引条件にも影響を及ぼし得る実質的な事業リスクおよび信用リスクへと転換させる規制といえます。
2026年に入った現在、企業はEUFLRがもたらす広範な影響を評価し、強制労働に関する規制が自社製品のEU市場アクセスにどのような影響を与えるかを検討を開始する必要があります。
EUFLRについて企業が知っておくべきこと
2027年12月以降、EU強制労働規制(EUFLR)は、企業の規模、業種、所在地に関わらず、強制労働によって生産されたあらゆる製品をEU市場に投入することを禁止します。製品の原産地も問いません。一見するとまだ時間があるように思えるかもしれませんが、人権デューデリジェンス体制を十分に強化し、外部の精査に耐え得る水準に引き上げること、また、サプライチェーンを可視化した上で、高リスク領域や主要な取引関係について十分な理解と管理体制を構築することには相応の時間を要するため、早期の準備が極めて重要です。
規則では、強制労働により生産された製品は、その対象が製造、加工、収穫、採掘のいずれの段階であっても(関連する作業・加工工程および構成部品を含め)、EU市場において販売、輸入、または輸出することはできません。また、Walk Free Foundationが公表した最新のGlobal Slavery Indexによれば、現代奴隷制のリスクを伴う製品のEU域内への輸入額は非常に大きく、例えばドイツだけでも約440億ドルに上るとされています。
本規制における強制労働の定義は、ILO第29号条約に準拠しており、具体的には「処罰の威嚇の下で強制され、かつ本人が自発的に提供していないあらゆる労働またはサービス」を指します。これには、強制的な児童労働、暴力や威圧による労働強制、不当な債務を利用した拘束(デットボンデージ)、身分証明書の没収等による自由の制限が含まれます。
禁止措置違反の疑いはどのように特定されるのか
各加盟国の所管当局は、違反の可能性を評価するにあたり、リスクベースのアプローチを採用します。評価は、「定義されたリスク指標」(2026年6月に欧州委員会から公表予定のガイダンスにて提示)、「欧州委員会が構築予定のデータベースに蓄積された情報」(2026年6月に公開予定)、単一の情報提出窓口を通じて欧州委員会に提供される情報に基づき行われます。また、調査対象となる製品は、想定される強制労働の規模および深刻度、EU市場に投入または流通している製品の数量・規模、製品のうち、強制労働により生産されたと疑われる部分の割合などから優先順位付けされます。
禁止措置違反が疑われる場合の対応
初期段階では、評価対象となる企業(必要に応じて関連するサプライヤーを含む)に対し、自社の事業およびサプライチェーンにおいて強制労働リスクを特定(identify)、予防(prevent)、軽減(mitigate)、終了(bring to an end)、是正(remediate)するために講じた措置に関する情報の提供が求められます。
これらの情報は、相当な根拠のある懸念(substantiated concern)が存在するかどうか、および本格調査が必要か否かの判断に用いられます。なお、当該情報の提出を拒否した場合、または提出できない場合、それ自体が所管当局により不利な判断要素となる可能性があります。このため、適切な人権デューデリジェンス体制の整備と運用が重要となります。
企業に求められる対応
本規制への対応においては、企業の準備の中核として、強固なデューデリジェンス・フレームワークの構築が不可欠です。デューデリジェンスに関する正式なガイダンスは2026年6月に欧州委員会より公表予定ですが、これに先立ち、欧州委員会および欧州対外行動庁(EEAS)は、EU企業が自社の事業およびサプライチェーンにおける強制労働リスクに対応するための指針を公表しています。これらの内容に整合したデューデリジェンス体制を構築するとともに、国際的フレームワークを組み合わせて適用することで、実効性の高い対応を始めることが可能となります。
各企業は、既存の規制(各国およびEUレベル双方)への対応を目的として導入している措置を見直すことで、共通性のある領域を特定できる可能性があります。その結果、既に整備されているアプローチを基盤として、強制労働という特有のリスクに対応するための取組をさらに強化・発展させることが可能となります。
今後の見通し
今後数ヶ月の間に欧州委員会は強制労働リスクに関するデータベースの整備および、強制労働リスクに関するデューデリジェンス指標、強制労働の終了および是正に関するベストプラクティスに関するガイドラインの公表が予定されています。また、中小企業(SMEs) 向けの専用ガイダンス等の支援ツールも併せて整備される予定です。
これらのガイダンスは、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)やOECDデューデリジェンス・ガイダンスといった既存の国際的フレームワークおよび標準と密接に整合するものになると考えられます。したがって、すでにこれらの枠組みに沿った方針や手続の整備・実装を進めている企業は、本規制への対応において有利なポジションにあるといえますが、EU市場向け製品については、サプライチェーン全体を対象とした優先的なリスク評価および対応が不可欠です。
弊社は国際的なサプライチェーンを含む人権デューデリジェンス業務の実績が豊富にございますので、ご質問、ご相談があれば是非ご連絡ください。
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